FRP防水パン （浴室用ベースパネル）

集合住宅向けユニットバスの床材となる防水パンの製造は、30年以上にわたり同じ会社が受注していましたが、金型も生産開始当初のものを修理しながら使用していたことから、これ以上生産することが難しくなっていました。

そこでお客様は新たにフィリピンの工場での生産の可能性を模索。現地工場に大型プレス機がなかったことから、ハンドレイアップ工法での生産を試みましたが、1日に1人当たり2台生産するのが限界で、コスト高になってしまうことがわかりました。また、新しい金型の制作費が1億円にのぼり、到底初期投資として出資できる額ではありませんでした。

そこで引き合いをいただいたのが当社でした。浴室用の防水パンは面積が大きいため、製造には、2000tクラスのプレス機が必要です。当時中国でもこのクラスのプレス機を所有している会社は3社しかなく、そのうちの1社が当社の協力工場でした。製品単価もお客様のご希望に沿うものでしたが、一つ大きな課題が残されていました。それが3,000万円まで抑えられた金型の製作費です。

金型製作費は当初の1/3以下になったとはいえ、お客様にとって当社は初めての取引先であり海外生産への不安も根強く、初期投資には慎重でした。そこで、もう1社の協力企業と当社の2社で金型の制作費を負担し、お客様にはその制作費を製品代金に上乗せして購入いただくことで承認をいただきました。

そして、製品のFRP素材選定が始まりました。製品面積は2㎡と大型で構造も複雑なため、型に流して高温のプレスをかけた際、溶剤が隅々まで行き渡る流動性が必要です。そこで、4～5社のFRP素材を取り寄せ何度も試作。この中から中国にある日本メーカーの素材が最適であることがわかりました。また、この製品は通常のFRP製品と異なり、プレス後の研磨や塗装を施さないため、製品サンプルの制作においては欠けだけでなく、色むらや表面の光沢具合まで厳しくチェックしました。こうした製造は中国の協力会社でも初めてでしたので、当社の品質管理担当者が現地工場に出向き、つきっきりで指導・監督を行いました。完成した製品サンプルの品質検査は、大阪産業技術研究所に依頼。第三者機関による物性値の確認が取れたことで、お客様も承認をえることができました。

生産体制が整いましたが、もう一つお客様のご要望がありました。それはこれまで通り10～20個単位の小ロットで発注したいということでした。しかし今回のプレス機生産は、機械を高温にするために4～5時間かかり、稼働が始まれば1時間に6個成形できてしまうので、小ロット生産は非効率なうえ、輸送費も上がります。そこで、製品は一度に大量生産し日本に輸送。お客様の拠点近くに倉庫を借り、製品をストックしておくことで、お客様の必要に応じて出荷できるようにしました。お客様は、小ロット生産によるコスト高は避けたいものの、いざ必要な時に在庫不足に陥ることを心配されていたので、この提案に大変安堵した様子でした。

さらに、当初は難しいと思われていたコストダウンに成功したこと、品質も予想を超える出来であったことから、海外製品への不安も払しょくされたようです。

仕事は、お客様のリクエストにただお応えするだけではなく、その奥にある懸念点や本来の要望を聞き出し、できる限り改善することです。こうした取り組みが今回の成功につながったと考えています。